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「その女の顔ってのは、こんな顔だったですかい」 江戸は紀伊国坂。商人が通りかかると掘端でうずくまって泣いている女。心配した商人は女に声をかける。顔を上げた女の顔は、目も口も鼻もないのっぺらぼう。商人は、腰を抜かさんばかりに驚いた。走りに走って夜啼き蕎麦屋にたどりつく。おやじに今みたことを話すと・・・。「その女の顔ってのは、こんな顔だったですかい」おやじの顔ものっぺらぼうだった・・・。 夏になると、なぜか怪談話や妖怪の話が多くなります。 妖怪は、「ゲゲゲの鬼太郎」のイメージが強く、作り話的な印象を持ってしまいます。でも、妖怪はれっきとした「民俗学」の1つのジャンルであり、学術的なものなのです。どの地域にも妖怪話が語られています。その地域の自然、生活などが妖怪話には密接に関係しているようです。「ゲゲゲの鬼太郎」の作者の水木しげるさんの描く妖怪のイメージが浸透していますが、妖怪には、「小豆洗い」のように音だけの妖怪もいるのです。どこからか水の流れる音と小豆を研ぐ音が聞こえてくるが、姿はどこにもない。このような不思議な現象に人々は、何か得体の知れない存在がいるのではないか、その奇怪な出来事は、その得体の知れない存在が起こしたのではないかという心の揺らぎから、「妖怪」の仕業として、「小豆洗い」という名を付けられたのです。(水木さんのイラストでは老人の姿をしていました。) 妖怪を辞書で引くと「日常の経験や理解を超えた不思議な存在や現象」とあります。不思議な現象、それを引き起こす見えない存在、人間と違う姿形のもの、人知を超えた総てを、「妖怪」と呼んできたようです。 ですから、原日本人と異なる渡来人の容姿や風習から、彼らを恐れて鬼や天狗と呼んでいたとも言われていますし、また、河童も当時日本人の知らなかった技術を持って治水工事のために日本に招かれた渡来人の集団であったという説もあるのです。 妖怪を分類してみると、次の4つに分けられます。 (1)不思議な現象、それを引き起こす力を想像した妖怪 ・・・鎌いたち、海坊主、幽谷響(やまびこ)、小豆洗い、人魚、ぬらりひょん等 (2)狐や蛇、猫等の動物が変化したもの・・・九尾狐、化け猫、龍等 (3)人の姿に近い妖怪・・・座敷童子、河童、山姥、雪女等 (4)力の存在、忌み嫌われる存在の象徴・・・鬼、天狗等 妖怪というと、子供の頃に母親から妖怪話を聞いたことがあります。 母の出身が越廼村という海に面した村なのですが、母も子供のときに親から聞いた話だとか。 『夕暮れ時、村の漁師が海岸で遊ぶ子供を見かけたので、「もうおせぇ(遅い)から、はよ家に帰ろ」と声をかけたら、その子供は「うん」と言って、海の方へバチャバチャと入っていって海ん中に消えていってしまった。』という話や、『漁師が海に向かう途中の路地で子供に出会い、その子供がみるみるうちに大きくなって「大入道」になっていった。その姿をあっけにとられて見上げた漁師のあごを「大入道」にひっかけられ、それが原因で亡くなった』という漁師の話。 その他に、天狗の住んでいる大木の話や、天狗の通り道を邪魔すると払い除けられてしまうと言われていて、村の者が自転車で走っていたら何もないのに急に跳ね飛ばされてしまったという話、神かくしの話などあったそうです。 ごく最近までは、身近のまわりにまだまだ不思議が広がっていて、異界との接点があったり、僕たちにも異界を感じるセンサーが開いていたのかもしれませんね。 妖怪、お化けの代表選手に「ろくろ首」があります。 ある男が、おじさんに、ろくろ首のお嬢さんのところへの婿入りの世話をしてもらう。ろくろ首だと知ってはいたが、首が夜ににゅ〜っと伸びて、行灯の油をぺろぺろなめるのを目のあたりにすると、やはりさすがにびっくりして、世話をしてくれたおじさんのところに駆け込んで、「おっかさんのところへ帰る」と言った。おじさんは、「今さら帰るったって、おっかさんは今回の話を喜んで、いい話が聞かれることを首を長くして待っているのだよ」と言ったので、「あ、そりゃ、おっかさんのところへも帰れねーや」と男が言ってオチる話が、古典落語のろくろ首。 この話では、首の長くなることが、妖怪としてではなく、お嬢さんの「病気」なのだそうです。 竹村政春さんという医学博士は、「ろくろ首考 〜妖怪の生物学〜」という著書の中で、首の長くなるメカニズムを生物学的に色々と検証しています。その中で人間の体の中に持つメカニズムが一番優れたものと考えました。それが、「小腸の折りたたみ方式」です。あの小腸の大きな面積、長さのものを、提灯のように細かく折りたたみながら、しかも小腸全体もくねくねとまとまって収められています。この構造がろくろ首の長い首を身体に収める一番よい方法ではないかとしています。(この研究に、何の意味があるのかは不明ですが・・・) ろくろ首の名の由来は、「傘のろくろを上に上げるのに従って柄が長く上へ上へと見えてくる様が首が長くなる様子に似ているところから、ろくろ首と名づけられた」と阿部主計氏は「妖怪学入門」で述べています。ろくろ首を英語では「a monster with a long neck which it can stretch and shretch and shrink at will」(意図的に伸ばしたり縮めたりできる長い首を持つ化け物)と言うことからみても、日本人の表現力、感性のすばらしさ(?)がよくうかがいしれます。 妖怪は、すばらしい民俗・文化ですので、この妖怪の旬の季節に、あらためて見つめなおすのも良いかもしれません。 |