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Riddle of longevity


 福井県は、平成12年都道府県別生命表によると、平均寿命が男女ともに全国2位の長寿県となっています。福井県では、「健康長寿な福井県」と銘打って長寿の謎の調査を行っており、2004年11月20日に「健康長寿フォーラムin福井」が開催されました。そこでは、伝統的な食生活の維持、趣味を持つこと、社会との関わりが深いほど元気であることなどが挙がったようです。
 以前にも福井大学(当時 福井医科大学)の日下教授らが、「福井センチュナリアン(百歳長寿)研究」と銘打って研究を行っています。1993年より3年間にわたり、福井県の長寿者の栄養や食事に関わる長寿因子、生活習慣を抽出する調査研究を行った結果、福井県の長寿要因の1つには、外食に頼らず伝統的な日本の食生活を維持して、動物性脂肪の摂取の増大を抑えつつ、伝統的日本食で過剰になりがちな食塩摂取をうまくおさえ、逆に不足しがちなカルシウムを所要量近くまで摂取するという優れた食生活を、福井県民が獲得していることにあったと結論づけています。元気な高齢者が一環してよく食べた食物は、漬物、芋類、煮物料理、汁物、野菜であり、特にナス、カボチャ、大根、蕎麦や柿などをよく日頃から食べていることがわかりました。これらの食物は、いずれも発がん抑制効果が高い食べ物であり、つまり福井県における長寿者が発がん抑制効果の高い食べ物を好んで摂取していることがわかったといいます。その食品のうち2つを使用した郷土料理「おろしそば」が好んで食べられているのはいうまでもなく、健康長寿な食物と言えるでしょう。
 長寿の秘密については、以前、日本テレビ系番組「特命リサーチ200X」でも取り上げられたことがあります。(当時、福井県にも電話取材があったのですが、日下教授の調査の紹介程度しかできませんでした。)そこで取り上げられた要因としては、「気圧の低いところは長寿」というものです。内容は、以下のようなことでした。
「天気が晴れた場合、大気中の下降気流によって気圧が高くなり酸素が増加する。そのため呼吸数が増え、アドレナリンが出て顆粒球(体内に侵入した細菌を食べる細胞)が増加する。結果、毒性をもつ活性酸素が放出されてガンの誘発にもつながるという。アドレナリンによる血管の収縮・血圧上昇で、脳卒中や心筋梗塞をおこすこともある。他にも結膜炎・中耳炎・副鼻腔炎などの病気は、晴れの天気が生み出す高気圧が顆粒菌の増加を招き病状が悪化する。
気圧の高い所よりも低い所の方が、人間の健康や体にはいい影響を与える。栄養条件が満たされた気圧の低い地域は長寿であるという。気圧と酸素量、酸素量と活性酸素量、活性酸素量と寿命のつながりを考えると気圧が寿命に関係している事は充分に考えられる。また、食事やストレスなど様々な要因が加味されて気圧の低い地域が長寿地域となったと思われる。」
長寿県のうち沖縄県や長野県などでは、台風や山岳高地のため、気圧が低いことが、他の地域よりも生活習慣病になり難い自然条件となっているというものでした。
 「日本文明の謎を解く」(竹村公太郎 清流出版)の中で、「女性の進化を目撃した世紀」という章があります。
昔から世界中で「水」に関する役割は女性でした。狩りや漁、そして農作業といい、男の仕事は、仕事のヤマ場が過ぎれば休息が待っていましたが、女性の受け持っていた水廻りの仕事には区切りがありませんでした。水汲みは毎日こまめに行い、食事や洗濯、風呂炊きも毎日しなければなりません。水廻り以外も、掃除、縫い物、薪割りと止めどもなく仕事がありました。しかも、出産、育児もあり、現在の日本人が想像できないほど過酷なものであったといいます。そのため、江戸時代には、女性は男性よりも平均寿命が7歳も短かったようです。ところが、大正時代には、女性の寿命の伸びが男性に比べて著しく伸び、男女とも同じ寿命となったといいます。明治から大正にかけて、女性になにが起こったのでしょうか。これには、経済の発展、教育の普及、家族制度の変化等さまざまな要因が挙げられますが、社会資本という面からとりあげると、「水道」の普及にあるのではないかといいます。「水道」の普及により、女性を水汲みという過酷重労働から開放し、精神的なゆとりを与え、女性の寿命を延ばす一端になったといいます。そして、大正から現代にかけて、また一段と女性の寿命がのびている。ここには、「家庭内インフラ」の充実、いわゆる家庭電化製品の普及による家事形態の変化、家事労働時間の短縮により、女性をさまざまな労働から開放し、女性に時間と自由が与えられたことによるのではないかとしています。
 どうも、長寿の謎を解くには、食生活や生きがいを持つということだけではなく、自然条件、労働形態など多方面の視点が必要なのかも知れません。福井県の調査結果はどう結論づけるのか、興味のあるところです。
 ひとつ違う角度から福井県の長寿について語ってみましょう。
 福井県、特に若狭はその昔、不死と豊穣をもたらす理想境としてのイメージがありました。それは、聖なる水の湧き立つところとして知られていました。
 3月12日に東大寺二月堂で行われる修二会の「お水取り」では、後夜の勤行(ごんぎょう)の中ごろ(13日午前2時ころ)、若狭井という「閼伽井(あかゐ)」から香水を汲み取り、本堂の仏前に供えるという神事が行われています。若狭井の香水は、諸病諸厄を四散させる霊力があるといわれ、この聖水は、若狭国遠敷郡の鵜の瀬と地下水脈で通じており、鵜の瀬の水が二月堂の若狭井から湧出するとされています。それに先立って3月2日には、神宮寺の住職により、東大寺二月堂へ聖水を送る神事として「お水送り」の行事が行われています。
 このように、奈良が水脈により若狭とつながっているという信仰は、井原西鶴の「西鶴諸国ばなし」巻二の第三話「水筋の抜け道」にも「奈良の都へ若狭より水の通ひありと伝えし」としるされています。
 その他にも大和における「若水迎え」の習俗にもみられるのです。「若水迎え」とは、元旦のまだ暗いうちに、1年の幸福を招き、新たな生命力を呼び覚ます聖水とされる若水を井戸から汲む行事のことで、奈良の平城地区の押熊では、井戸にタチバナをいれて、「ワカサ ワカサ」と唱えながら汲みあげ、また、田原地区では「ワカサノミズ ワイタカ ワカンカ ワイタ ワイタ」と唱えながら汲むということです。
「サ という音が水または水神、田の神をあらわす」という説もあり、「ワカサ」は若水の意味を含んでいるとも考えられます。「ワカサ」と唱える習俗には若水に象徴される新たな生命力を呼び覚まそうとする願いが込められているのかもしれません。また、若水が、月読命が持つとされる「変若水(おちみず)」の系譜につらなるとすれば、若水が「若返りの水」としても考えらていたと思われるのです。
変若水(おちみず)とは、月(月読命)にあるという飲むめば若返るといわれた水。月の不死信仰にかかわる霊薬のひとつ。
 東大寺二月堂の修二会が春迎えの行事であるならば、若狭井から香水を汲む儀式は若水迎えと対応しており、また、香水が効験を発揮するためには水自体の神聖性が必要であったため、水が若狭国から到来するとする必要があったのです。古代官撰風土記である「若狭国風土記」に、国の名の由来が記されています。「昔この国に男と女があって夫婦になり、ともに長生きして、人はその年齢を知らなかった。容貌の若いことは少年のようである。後に神となった。今の一の宮の神がこれである。それで若狭の国と称する」(一の宮=若狭彦・姫神社)若狭が長寿(=永遠の生命を保証する常世の国)にまつわる国として、若狭井から汲まれる香水は、変若水(おちみず)の意味を含めて若狭国から届くとする必要があったのではないでしようか。
(風土記は和銅六年(713年)、元明天皇の命で諸国が編纂した地誌。地名の由来、古くからの伝えられている伝承をまとめたもので、「若狭国風土記」も多くの国の風土記と同様現存せず、「逸文」の形で「和漢三才図会」に引用として残っている。)
 この聖なる水が若狭から到来するという伝承は、奈良ばかりではなく京都の水薬師寺の池にも残っています。若狭の鵜の瀬から京都、そして奈良と、北から南へと直線上で結ぶことができることも不思議なことです。
 また、この不老不死が実現される国としての観念は、人魚の肉を食べて八百年まで生きた八百比丘尼伝説の舞台が若狭であることでも分かります。
さらに、八百比丘尼が入定したと伝えられる小浜市の空印寺の縁起では、八百比丘尼の父が「秦道満(はたどうまん)」といわれ、陰陽師 安倍清明のライバル芦屋道満のことだといわれています。陰陽道の中でも不老不死は秘術中の秘術とされ、陰陽師 安倍清明の末裔が、応仁の乱の戦火をさけ、若狭国の名田庄の地に移り住んだことも偶然ではないのかも知れません。
 秦の始皇帝の時代、始皇帝は、中国の東方にあるという伝説の島の蓬莱山に不老不死の薬を求めて、「徐福」という名の男を派遣したといわれており、その伝説の島(日本)に徐福が上陸したという地が、若狭の隣の丹後半島だとされているのも、何か不思議な感じがします。
このように、若狭は、古代日本の不死と豊穣をもたらす理想境であったのです。

 日本では古来、月(月読命)には飲めば若返るという「変若水」(おちみず)という水があると信じられてきました。
「万葉集」13巻3245 に 「天橋も長くもがも、高山も高くもがも、月読の持たる変若水、い取り来て、公に奉りて、変若得しむもの」 と詠まれています。
 この「変若水」は原文では、『越水』(おちみず)と書かれています。不老長寿に効能のある変若水は、越の国にもあるとかんがえられていたのでしょうか?




この国に男と女があって夫婦になり、ともに長生きして、人はその年齢を知らなかった。容貌の若いことは少年のようである。…それで若狭の国と…。


「福井新聞」 (2004年11月21日付)
「福井センチュナリアン研究」福井大学(当時 福井医科大)日下教授他
日本テレビ系「特命リサーチ200X」より
「長寿地域に秘められた謎を追え!」1997年11月2日放映
「日本文明の謎を解く」竹村公太郎 清流出版
「王の舞の民族学的研究」橋本裕之 ひつじ書房





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